思い出のあるお皿が欠けてしまったり、割れてしまったりして悲しい思いをしたことがありませんか?もしかしたら、日本の伝統的な「金継ぎ」手法で、再び使えるようになるかもしれません。(美術館でも金継ぎで復元した壺などを見かけることがあります。)
専門家に修理を依頼することもできますし、自分で金継ぎをすることもできます。
ここでは私がワークショップに参加したり、自分で試した、伝統的な「漆を使った金継ぎ」と、最近登場した手軽な「簡易金継ぎ(仮称)」の特徴や違いについてご紹介します。
個人的な経験ですが、金継ぎをしたお皿はそれまでよりも愛着が増します。
それぞれの手法の特徴を把握して、用途と状況に合わせた金継ぎをぜひ楽しんでみてください。
※細かい方法は先生や本によって異なります。
漆金継ぎの例
簡易金継ぎの例
金継ぎとは
「金継ぎ(きんつぎ)」は「金繕い(きんつくろい)」とも呼ばれる補修技術です。伝統的な金継ぎは、陶磁器の割れや欠け、ヒビなどの破損を漆を使って接着し、金や銀などの金属粉で装飾します。(漆だけの仕上げもあります。これも美しいです。)破損個所をきちんと継いで埋めることで、再び液体を入れて使用することもできます。くっつきづらかったり、継いだ側面が見えるので若干難易度があがりますが、ガラスも金継ぎで繋ぐことができます。
欠けてしまった箇所をなくしてしまっても、パテのようなもので新しくパーツを作ってつなげたり(漆金継ぎ写真の右下、とっくり?壺の口参照)、別の器のかけらを付けたり(呼び継ぎ)することもできます。お気に入りの器が壊れてしまったら「金継ぎ」で蘇らせてみてはいかがでしょうか。
金継ぎの手順
金継ぎの手順をシンプルにするとこの4ステップです。陶磁器が割れておらず、欠けだけの場合は1の作業は不要なので、2の作業から行います。
手順 | 漆の金継ぎ | 簡易金継ぎ |
1. 破片をつなぎ合わせる | 漆+強力粉+水 | 瞬間接着剤 |
2. 欠けを埋める | 漆+砥の粉+水 | エポキシパテ |
3. 埋めたところをなめらかにする | 漆+やすりがけ | やすりがけ |
4. 装飾する | 漆+金属粉 | 合成塗料 |
割れ
欠け
「漆の金継ぎ」「簡易金継ぎ」の特徴・違い
伝統的な「漆の金継ぎ」は漆をベースに、小麦粉や砥石の粉末(砥の粉)、金粉といった自然由来の素材のみで行われます。一方、「簡易金継ぎ」(「近代金継ぎなどとも呼ばれます)は瞬間接着剤やエポキシパテ、合成塗料などのケミカルな素材を使います。そのため、下記のような違いが生じます。ちなみに手法による見た目の違いはパッと見だけではわかりにくいと思います。
漆の金継ぎ | 簡易金継ぎ | |
時間 | 長い (目安:数か月) |
短い (目安:数時間) |
手間 | 多い 漆かぶれの可能性も |
少ない |
安全性(食器など) | 高い | 保証されていない |
ご存知のように瞬間接着剤やエポキシパテはすぐに固まります。一方、漆は空気中の水分から酸素を取り込んで硬くなる(湿気が高いと乾きやすい)という性質があるため、乾くのに数時間から数日を要します。そのため、1つの作業手順ごとに時間がかかり、出来上がりまでに数か月がかかったりします。(季節により異なります。)
また、漆の特徴として皮膚につくとかぶれるので手袋をつけて作業をしなければならなかったり、水では落ちないため油を使って器具などを洗浄するといった手間がかかります。しかし、漆は縄文時代から使われている天然素材なので、食器としての使用でも人体に影響はなさそうです。対して瞬間接着剤や合成塗料は人体への安全性が確認されていません。(ちなみに瞬間接着剤でくっつけた破片は、お湯で長時間ゆでると外すことができます。熱い汁物を入れた容器などでは成分が溶け出る可能性もあるかもしれません)
内側を「簡易金継ぎ」で、表面のコーティングを「漆の金継ぎ」で行うという両方の特性を合わせた手法も可能です。(この際、どのくらいの使用で表面の漆がはがれるか、漏れがないかというのはなかなか判断しづらいですが、時間短縮と美しさというメリットはありそうです。)
自分で金継ぎをするには
金継ぎ教室に通うほか、材料を調達して本を参考にしながら自分で行うことも不可能ではありません。「簡易金継ぎ」「漆の金継ぎ」について材料やおすすめの本をご紹介します。
主な材料、道具
本を見ながら必要な道具を集めるのが良いでしょう。(100円均一で探せる道具もあります)漆の場合、金継ぎキットも各種販売されています。ちなみに私は下記のキットを使っています。漆がマニキュアタイプです。使い終わったらチューブ型の漆を買い足してもいいと思います。
色々な種類のセットが出ているので、自分に合いそうなものを探してみましょう。
おすすめ本
私の市の図書館にはこれだけ金継ぎ本がありました。ざっと眺めて共通点を探したり、わかりやすいもの、合う本を見つけてもよいと思います。

参考までに、私が受けたのはこちらの講座です。どちらも丁寧でわかりやすく、しっかり器を繕うことができました。
簡易金継ぎ
※写真に写っているものは道具の一部です。
ナカムラクニオさん
『開運!なんでも鑑定団』をはじめ、フリーランスで美術や旅番組のディレクターとして番組を作ってきたナカムラクニオさん。西荻窪のカフェ『6次元』の店主であり、全国各地でワークショップをされています。西荻窪のワークショップに参加した時、土器を含む色々な焼き物のかけらを触らせてくださいました。
右の本はキットが付いているので、気軽に始められそうです。
下記はキットがセットになったMookなので始めやすそうです。
漆の金継ぎ
※写真に写っている道具は道具の一部です。
堀道広さん
石川県立輪島漆芸技術研修所卒。国立高岡短期大学漆工芸専攻卒というガチ漆経験者の漫画家。「金継ぎ部」主催。ユニークな絵柄の漫画やイラストを目にしたことがある方もいるのではないでしょうか。漆をテーマにした『青春うるはし!うるし部』というコアな漫画も執筆。絵のとおり、ゆるく和やかな方ですが、ポイントを押さえた教え方と、ゆるぎないテクニックがすごい。(「かすがい」という難しい継ぎ方もできるし・・・)本も独特の表現と、シンプルな手順、かわいいイラストで、とてもわかりやすい。非常にオススメです。
まとめ
手軽にすぐできるのが「簡易金継ぎ」で、手間がかかる昔ながらのやり方が「漆の金継ぎ」です。しかし、簡易金継ぎは安全性が保証されていません。安全性について気になる方は、置物など口に触れないもので「簡易金継ぎ」をしてみるといいのではないでしょうか。時間をかけてじっくり安全な素材で繕いたい方は「漆の金継ぎ」にチャレンジしてみると良さそうです。